もう一つの27話。修羅の刻風にいうと「機動戦士ガンダムSEED-DESTINY第27話[裏]」といったところでしょうか。ラクス再出撃を受けて「やり遂げる意志」を確認したのは(&相対化されたのは)、キラやカガリたち以外にも、もう一人いたわけで。それぞれの正義を相対化しつつ、旧主人公&クルーゼ&議長の価値観を対比描写する構図の妙が気持ち良い。そんな「Fates」(←複数形)に燃え燃え涙です。
…というかですね。いつからZは「シリーズの頂点」になったのよ?どちらかと言うと下の方なんですけど…。
■Fates
旧主人公、デュランダル、クルーゼ。それぞれの価値観を対比し、「絶対的正義でも絶対悪でもないんだよ」と相対化しまくり。今回のタイトル、そしていくつかの台詞で明暗示されていましたが、ポイントはタイトルどおり「運命」ですね。
要約するなら、運命の過酷さに耐えきれずに滅びを選んだクルーゼと、運命の過酷さに耐えながら生きようとする旧主人公&議長。その耐え方として、人の自由意志があれば運命の過酷さにも耐えられると信じた旧主人公と、人の力で楽(?)な運命を作り出そうとする議長。といったところでしょうか。クルーゼは、そんな旧主人公&議長を「血の道を彷徨」っていると揶揄していますね。
まぁ、デュランダルのスタンスは推測になりますが、神の方程式(←遺伝子操作技術?)を解き明かすことで、定められた運命に束縛されない自由な未来を恣意的に捏造しようとする、そんな「運命&神意への強反抗モード」「私こそが神になるモード」っぽい感じです。彼がチェスのゲームマスターとして描かれるのは、今回の戦争を動かす黒幕であることと、運命を司る神になろうとしていることの二つを暗喩しているのではないでしょうか。
■選びえなかった道の先にこそ、本当に望んだものがあったのではないか
そんな具合に、どこか歪んだ印象を抱かせるクルーゼ&デュランダルの「道」ですが、その道は共に「願いは叶わぬものと知った時、それが定めと知った時」に「抗い、求めた」道。心の奥底では「もしもあの時、もしもあの時」と考え、いつまでも「選びえなかった道の先」にある「本当に望んだもの」を意識&否定しながら生きている(いた)わけで。
希望を抱くから絶望する。期待も関心もないのなら、希望もしないし絶望もしない。絶望する人間は、それでも心の奥底に希望を抱き、どこかで救いを求めるけれど、そんな光があるからこそ、絶望の影はより濃く深く、その身と心を苛む。スイカにかける塩みたいなもんですね>人間心理。
そう考えると、全人類の滅亡を願うほどに激しく絶望したクルーゼは、破滅と共に「希望」を求めたんじゃないかと思えるんですよね。誰よりも強く「選びえなかった道の先」にある「本当に望んだもの」を感じながら、それでも、その身を苛む肉体的定めゆえに滅びの道を歩むことしかできなかった。それがクルーゼという男だと思えます。
ですから、その歪んだ道の裏側には、もう一つの「選ばなかった道」が透けて見えまくるんですよ。そして、それこそが、旧主人公たちの選んだ道なのでしょう。種50話のクルーゼも、キラの「守りたい世界があるんだ!」の一言に「もう一人の自分」「もう一つの道」を透かし見たからこそ、どこか満ち満ちた、それでいてどこか嘲笑じみたスマイルでご逝去されたように思えまくり。
そして今、デュランダルも。クルーゼと違って破滅を望みはしないものの、光を求めつつも、闇を生きることしか選べないのでしょうね。
■デュランダルの選びえなかった道、本当に望んだもの
そしてもう一つ。デュランダルは、旧主人公たちと同じように「運命に呑まれることなく生きる」ことを選んだ。そういう共通項があることを意識して今回の話を見ていると、ジワッと滲んでくる事実が見えたり見えなかったり。
アスランから離れてキラと添うたラクス。大事な友達から貰った大事な存在。親友の死。想いだけでも力だけでも叶わなかった願い。手にした力。コーディネーターとしての肉体。カテゴリーからの脱却…。 これ、全てデュランダルにも共通する過去なんじゃないかと。彼も旧主人公たちと重なる過去を生き、同じように「運命に呑まれることなく生きる道」を選んだんじゃないかと。
デュランダルから離れて別の男と添うたタリア(?)。大事な友達から貰った大事なレイ。クルーゼの死。想いだけでも力だけでも叶わなかった願い。手にした遺伝子技術。コーディネーターとしての肉体。カテゴリーからの脱却…。 今回映し出された旧主人公の辿った過去とその想いは、まさしくデュランダルにも共通する過去であり、想いであると。そう見えてくるんですよね。
ならば、彼もカガリと同じように「生きる方が戦いだ」と考え、キラと同じように彼の「守りたい世界」を守るため、AAの皆と同じように「己のできること、己のすべきこと」を為し、戦っているのではないでしょうか。その上で、ラクス再出撃を受けて、キラたちと同じように「やり遂げる意志」を再確認したのではないでしょうか。
だとするならば、彼も生きるために、己の守りたい世界を守るために、「戻れぬというのなら、はじめから正しい道を」「己のできること、己のすべきこと。それは自身が一番よく知っているのだから」と念じながら、自分にできる精一杯の「血の道」を彷徨っているんでしょうね。選びえなかった道の先、本当に望んだ未来。そこから目を背け、どこかで己を偽りながら…。
今回の前作映像は、そんなデュランダルの過去を彩る対比描写の一部として、意図を伴った確信的演出っぽい感じ(←鳥肌たった…)。そうなると、単なる相対化だけではありませんよ。デュランダルは、もう一人のキラであり、もう一人のアスランであり、もう一人のカガリであり、もう一人のラクスであり。選んだ道は異なるにせよ、そのスタンスは旧主人公たちと同じものですから、無碍に否定はできないわけで。ヤヴァイっす。超楽しみっす。
■友
でもね、クルーゼは人の孤独に絶望して死を選んだけれど、それでも「友」と呼べる人間がいたんだと思うんですよ。キラにはアスランがいて、アスランにはキラがいて、ラクスがいて、カガリがいて、AAメンバーがいて。それと同じように、クルーゼにはデュランダルがいて、デュランダルにはクルーゼがいて、レイにはシン他ミネルバの戦友がいて…。
言葉を介さずともわかりあえる人、共に生きたいと思える人。旧主人公たちにもそんな人がいて、そんな人とのつながりを守るために、守りたい世界を守るために、それが「血の道」と知りながらも過酷な生を選んだはずなんですよ。
叶わぬ未来に絶望するのではなく、願う未来を模造するのではなく、たとえ運命から拒絶されても、確かに存在する人とのつながりの中で今を生きることの大切さ。それでこそ生まれうる必然の未来。そこに救いと希望を見出してもらいたい。そんな人間賛歌を見せてもらいたい。個人的には、そこも一つのポイントになるような気がしたりしなかったり。そして、できることならクルーゼやデュランダルも救ってもらいたい。そう願いながらEDへ。
■I wanna go to a place…
今でも気付かないでしょう この静かな空に いつでも思い出すけど もうどこにも戻れない そしてずっと心で 醒めてそっと気付いて いつかきっとやさしさ 見えてくるように
What’s stopping me? I get stuck again Is it really OK? It’s never OK for me What’s got into me? I get lost again Is it really OK? It’s never going to be 願った未来。戻れない過去。儚い幻。幻の中でも惑いもがくのではなく、幻から目醒めて、今確かに存在する現実に優しさを。そう願わずにはいられないエピソードでした…。
というか、この歌、新旧主人公全ての歌であると同時に、デュランダル(真)用の歌なんじゃ…
■真偽路線?
そういうわけで、デュランダルは「もう一人の旧主人公」でありそうですから、無碍に否定はできなさそうです(←旧主人公サイドの根っこまで破壊してしまうことになりますから)。しかも、「選びえなかった道の先に〜」の台詞から、議長自身も「本当に望んではいなかった偽りの自分」と自覚していそう。ますます「正しさは相対的だけど、真偽は証すことができる。己こそが知っている」的な帰結がありえそうですね。
思えば3話で「偽りの存在」というフレーズが出ていましたが、終盤、この「真偽」ネタが強烈につながってくるかも。真偽の定義について掘り下げてきそうなラクス&ミーアネタと共に「偽(・A・)イクナイ!」的帰結になったら燃え。そこにシンの携帯やステラの記憶を重ねてきたら発火するかも。
まぁ、現状では直感的なイメージなのですが、そういった価値基準をベースにそれそれを肯定or否定した上で、光を示す部分で「本当に願った未来」「人とのつながり」をデュランダル&クルーゼに与えて「救い」を描くように思えまくりです。
■登場人物の台詞
ものすご〜〜〜くNT的キュピーン発想なのですが、福田監督、おそらく富野監督と同じように、登場人物の台詞を介して視聴者に物申しています。ZやVを破綻させて「アニメなんてくだらね〜んだよ」と言い放った富野監督とは異なり、物語は破綻させない上でですけどね(←というか最初から言いたいことをテーマにした作品なんでしょうけど)。前作もそんな色合いが濃かったのですが、今回はかなり確信犯的にやっているような気配が濃厚。ちょっとオモシロw
という感じで29話終了。倒れた駒に、想定外のラクスの行動によってデュランダルの棋譜に乱れが生じたことを暗示しつつ、30話へ。ここで相対化&対比路線が示されたことが終盤のデュランダル描写にどう影響を及ぼすのか、超期待です。なんというか、ますます衒学&ヘーゲル弁証法のノリが加速化していきますね。因果関係や伏線が全部回収されたら気持ちいいだろうな〜。
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